Apple TV+の劇場公開戦略に変化の兆し

Apple TV+は、ストリーミングサービスとしての地位を確立するために、映画の劇場公開に積極的に取り組んできました。しかし、最近の動向を見ると、劇場公開の規模を縮小しているのではないかという声が上がっています。

「Wolfs」の劇場公開縮小が示唆するもの

最近の動きで特に注目されているのが、ジョージ・クルーニーとブラッド・ピット主演の「Wolfs」の劇場公開戦略です。当初、大規模な劇場公開が予定されていたこの作品ですが、最新の情報によると、わずか1週間の限定公開後にApple TV+での配信が決定したのです。

この決定は、Appleの過去の大作映画の公開戦略とは大きく異なります。例えば、「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」や「ナポレオン」といった作品は、6週間以上の劇場公開期間を経てからストリーミング配信されていました。

Apple TV+の劇場公開戦略変更の背景

では、なぜAppleはこのような戦略の変更を検討しているのでしょうか？いくつかの要因が考えられます。

1. 興行成績の影響

直近の大作映画の興行成績が、期待ほどではなかったことが挙げられます。例えば、「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」「ナポレオン」「アーガイル」の3作品は、制作と宣伝に約7億ドル（約1050億円）を投じたにもかかわらず、興行収入は4億6600万ドル（約700億円）にとどまりました。

2. ストリーミングサービスの成長

Apple TV+の契約者数が増加し、プラットフォームとしての地位が確立されてきたことも影響しているでしょう。初期に比べ、大規模な劇場公開による宣伝効果の必要性が薄れてきた可能性があります。

3. コスト削減の動き

Appleは他の分野でもコスト削減を進めているとの報道があります。映画製作・公開戦略もその一環である可能性が高いです。

劇場公開の意義：なぜ重要なのか？

なぜストリーミングサービスの会社が、わざわざ劇場公開にこだわるのでしょうか？

1. アカデミー賞対策：

アカデミー賞の受賞資格を得るためには、一定期間の劇場公開が必要です。Appleは2022年に「CODA」で作品賞を獲得し、ストリーミングサービス初の快挙を成し遂げました。

2. 映画製作者との関係維持：

多くの映画監督や俳優は、自分の作品が大スクリーンで上映されることを望んでいます。優秀な人材を確保するためには、劇場公開は重要な要素となります。

3. ブランドイメージの向上：

大規模な劇場公開は、Apple TV+のブランド価値を高める効果があります。高品質な作品を提供するプラットフォームとしてのイメージ構築に貢献します。

4. マーケティング効果：

劇場公開は、それ自体が大規模な宣伝活動となります。billboard広告やTVスポットなど、幅広い層に作品の存在をアピールできます

Apple TV+の今後の展望：完全な戦略転換ではない

「Wolfs」の劇場公開縮小は、一見するとAppleの大きな方針転換に見えますが、実はそうではないかもしれません。業界関係者によると、Appleは依然として大規模な劇場公開を計画している作品もあるそうです。

例えば、ブラッド・ピット主演のF1映画は、2025年の夏の大作として、「トップガン：マーベリック」並みの規模で劇場公開される予定だとか。つまり、Appleは作品ごとに最適な公開戦略を選択する、より柔軟なアプローチを取り始めているのかもしれません。

柔軟な戦略の利点

1. コスト効率の向上：

全ての作品に同じ規模の宣伝費をかける必要がなくなります。

2. 作品の特性に合わせた展開：

アクション大作は劇場で、ドラマ作品はストリーミングメインにするなど、作品の特性に合わせた戦略が可能になります。

3. 視聴者のニーズへの対応：

劇場で見たい人にも、自宅で楽しみたい人にも、それぞれのニーズに合わせた選択肢を提供できます。

(Via Apple Insider.)