「あれ、なんだか最近のiPhoneの操作、ちょっと分かりにくくなったかも…?」
もしあなたがそう感じたことがあるなら、今回の話は他人事じゃないかもしれません。2025年7月8日、Appleは大きな人事を発表しました。長年、CEOであるTim Cookの右腕として会社を支えてきたJeff Williams最高執行責任者(COO)が、その役職から退くというニュースです。
この記事を読めば、単なるトップの交代劇だけでなく、その裏側で起きている、私たちの手の中にあるiPhoneやApple Watchのデザインに深く関わる「ある重要な変化」について理解できます。そして、今後のApple製品を見る目が少し変わるはずです。
一見するとただの人事ニュース。でも、実はそこからAppleが今、直面している大きな課題と、未来への不安が透けて見えるんです。
AppleのNo.2が交代。後任はどんな人?
まず、今回の発表の基本的なところから。ポイントは「COOという会社の心臓部とも言えるポジションのトップが変わる」ということです。
これまでCOOを務めてきたのはJeff Williams氏という人物。彼はAppleのCEOであるTim Cookが最も信頼する人物の一人で、まさに会社の「縁の下の力持ち」でした。
彼が何をしてきたかというと、主に「オペレーション」と呼ばれる領域です。これは、iPhoneやMacなどの製品を、世界中の工場で作り、品質を管理し、お店や私たちの手元に届けるまでの一連の流れすべてを指します。この巨大で複雑な仕組みを、世界最高レベルにまで磨き上げたのが彼でした。
そして、彼の後任となるのがSabih Khan氏。彼もまた、30年間Appleに在籍し、Williams氏のもとでオペレーションを支えてきた、いわば叩き上げのプロフェッショナルです。
Tim Cook CEOも「彼は素晴らしい戦略家であり、Appleのサプライチェーン(製品供給網)の中心的な設計者の一人だ」と絶賛しています。つまり、オペレーションに関しては、経験豊富なベテランから、同じく経験豊富なベテランへと、非常にスムーズなバトンタッチが行われるわけです。これはAppleらしい、実に計画的で安定した人事と言えるでしょう。
でも、本当に気になるのは「デザイン」の話
さて、ここからが本題です。オペレーションについては盤石。では、なぜこの人事が大きな注目を集めているのか。それは、Jeff Williams氏が担当していたもう一つの重要な役割、「デザイン部門の監督」にあります。
話は2019年に遡ります。iPhoneやiMacの象徴的なデザインを生み出してきた伝説的デザイナー、Jony Ive氏がAppleを去りました。この時、彼の後任としてデザインチーム全体をまとめることになったのが、何を隠そう、オペレーションの専門家であるJeff Williams氏だったのです。
正直、多くの人が「なぜ?」と思いました。デザインの経験が全くない彼が、Appleの魂とも言えるデザイン部門のトップに立つ。これは、例えるなら、最高の料理人に、レストランの経理を任せるような、少し不思議な状況でした。
当時、これはカリスマデザイナーIve氏の後継者がすぐに見つからないための「一時的な措置」だろうと見られていました。しかし、その「一時的」な状態が、気づけば6年も続いていたのです。
ここ数年のApple製品、特にソフトウェアのアップデートで「ん?」と感じることがありました。例えば、コントロールセンターのボタン配置が変わって使いにくくなったり、通知の表示方法が分かりにくくなったり。もちろん素晴らしい進化もたくさんありますが、一部で「どうしてこうなったんだろう?」と思うようなデザインがあったのも事実です。
複数の情報源から得た印象では、Williams氏はデザインチームを「監督」はしていたものの、デザインそのものに強く意見を言うことはなかった、と指摘しています。彼自身のデザイン的な個性が製品に反映された形跡は、この6年間見られない、と。
これは、デザインの最終的な方向性を決める「強い意志」が、トップレベルで少し不在だった時期なのかもしれません。
Appleのデザインは、これから誰が決めるのか?
今回の発表で、事態はさらに興味深い局面を迎えます。Williams氏は年末に完全に引退しますが、新COOのSabih Khan氏は、彼のオペレーションの仕事は引き継ぐものの、デザイン部門の監督は引き継がないのです。
では、デザインチームは誰が率いるのか?答えは「CEOのTim Cook氏の直属になる」です。
一見、CEOが直接見るなら安心、と思うかもしれません。しかし、思い出してください。Tim Cook氏自身も、もともとはオペレーションのプロフェッショナルです。そして彼は現在64歳。彼がこれからデザインの細部にまで目を配り、新たな方向性を打ち出していく、というのは現実的でしょうか。
Jony Ive氏が去って6年。Appleは未だに、彼の後任となる「最高デザイン責任者」を置いていません。今回の人事で、その不在がより一層、際立つことになりました。Appleの製品をAppleたらしめている、あの洗練された使いやすさや、心惹かれる美しさ。その根幹にある「デザイン哲学」の舵取りを、これから一体誰が担っていくのか。それが、これまで以上に不透明になってしまったのです。
これは、Appleという会社にとって非常に大きな課題です。そして、毎日Apple製品に触れている私たちユーザーにとっても、決して他人事ではありません。
ちょっとした実践的アドバイス:あなたの声が未来を変えるかも
もしあなたがiPhoneやMacを使っていて、「ここがもっとこうだったら良いのに」と感じることがあれば、ぜひAppleにフィードバックを送ってみてください。実は、Appleはユーザーからの意見を受け付ける公式なページを用意しています。
大きな組織ですが、一つ一つの声が、次の製品開発のヒントになる可能性は十分にあります。デザインのリーダーシップが不透明な今だからこそ、ユーザーの声の価値は、以前より高まっているかもしれません。
変化の先のAppleに何を期待するか
今回のJeff Williams氏のCOO退任とSabih Khan氏の就任は、表面的には非常にスムーズで計画的な、いかにもAppleらしいリーダーシップの移行です。会社の屋台骨であるオペレーションは、これからも安泰でしょう。
しかし、その裏側で、Appleの「魂」とも言えるデザイン部門のリーダーシップ不在という課題が、よりはっきりと浮かび上がってきました。伝説のデザイナーJony Ive氏が去り、その後の「つなぎ」役だったJeff Williams氏も引退する今、Appleのデザインは大きな岐路に立たされています。
これから発表される新しいiPhoneやApple Watchを見るとき、私たちは少し違う視点を持つことになるかもしれません。「この美しいフォルムは、この直感的な操作性は、一体誰の哲学から生まれたんだろう?」と。
もしかしたら、Williams氏が年末まで会社に残るのは、この最も重要な問いに答えを出すための準備期間なのかもしれません。
一人のAppleファンとして、そして毎日その製品を使う一人のユーザーとして、今後の動向を注意深く、そして少しの期待を込めて見守りたいと思います。
(Via Apple.)
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