米国でiPhoneを製造するという長年の議論に、新たな展開がありました。
米国商務長官のHoward Lutnick氏によると、AppleのTim Cook CEOは「ロボットアーム」の技術が整えば、米国でのiPhone製造を開始する意向を示したとのことです。
この発言は、米国製iPhoneの実現可能性と課題について多くの議論を呼び起こしています。
Lutnick商務長官の発言とその背景
Lutnick商務長官は最近CNBCのインタビューで、Tim Cook CEOとの会話について言及しました。Cook CEOは「必要なのはロボットアームだ」と述べ、「規模と精度を確保できれば米国に持ってくる。
その技術が利用可能になれば、すぐにここで製造を始める」と語ったとされています。

この発言の背景には、トランプ政権が進める製造業の国内回帰政策があります。Lutnick長官は、Appleが米国内で5,000億ドル(約75兆円)の投資を約束していることに触れつつも、実際の製品製造については別問題であると認識しています。
現在、iPhoneを含むApple製品の大部分は中国で製造されています。その主な理由は、中国が持つ熟練した労働力と巨大な生産規模にあります。
Lutnick長官によれば、Cook CEOは「労働者の大群」を雇用することのリスクを懸念しているとのことです。中国での社会不安やストライキがAppleの製造活動に悪影響を及ぼす可能性があるためです。
ロボット技術による製造革命の可能性
Lutnick長官が描く未来では、中国の労働集約型の組立ラインとは異なり、米国では高度な技術者がロボットを操作して工場を運営することになるでしょう。彼は「アメリカ人はネジを締める作業をするのではなく、いわゆる『AI産業革命』の一環として高給の仕事に就くことになる」と主張しています。
しかし、この「ロボットアーム」の発言は話題性はあるものの、AppleやCook CEO自身からの公式な確認はまだありません。実際の会話の内容や文脈についても不明な点が多いのが現状です。
とはいえ、Cook CEOがトランプ政権と良好な関係を築こうとしていることや、政権の方針を考えれば、何らかの会話が交わされた可能性は高いでしょう。そして自動化やロボットアームの活用は、米国でのiPhone製造を実現するために必要な道筋かもしれません。
米国と中国の製造業における技能差
Cook CEOは2018年に中国の労働力について言及した際、中国の工場での労働は米国では低コストと見なされているが、実際には高度に専門化された作業だと述べています。
中国では職業訓練が他の国よりも積極的に推進されており、何十年もかけて世界クラスの工具技術者が育成されてきました。
Cook CEOの見方では、この工具技術は中国に「非常に深く根付いている」ものであり、簡単にロボットに移行できるものでも、短期間で習得できるものでもありません。
米国の労働力が同様のスキルを同レベルで習得し、大規模な製造を米国に移転するには、多大な時間、努力、そして米国の労働力への信頼が必要になるでしょう。
米国製iPhoneの実現に向けた課題
米国でiPhoneを製造する際の主な課題としては、以下の点が挙げられます:
- 熟練した労働力の不足
- サプライチェーンの複雑さ
- 製造コストの上昇
- 必要な自動化技術の開発
特に自動化技術においては、人間の持つ繊細な技能を再現するロボットアームの開発が鍵となるでしょう。現在の技術では、中国の熟練工が行っている精密な作業をすべて代替することは難しいとされています。
一方で、Appleはすでに米国内での製造拡大に向けた取り組みを始めています。例えば、テキサス州ではMac Proの製造を行っており、また最近発表された5,000億ドルの投資計画には、ミシガン州での製造アカデミーの設立も含まれています。
今後の展望
結局のところ、Appleがロボットアームにせよヒューマンアームにせよ、どのような方法で米国でiPhoneなどの製品を製造するようになるとしても、それが現実になるまでには数年かかるでしょう。もし実現するとしてもです。
専門家の中には、米国内での完全な製造よりも、部分的な組立作業や特定コンポーネントの米国内生産といった妥協案が現実的だと見る向きもあります。
また、iPhoneのコンポーネントの約90%が中国で製造されている現状を考えると、サプライチェーン全体の再構築は容易ではありません。
しかし、技術の進化とともに可能性は広がっています。特に自動化とAI技術の発展は、これまで人間にしかできないと思われていた精密作業を機械が担える日を近づけているかもしれません。
いずれにせよ、米国製iPhoneの実現は、単なる製造拠点の移転だけでなく、技術革新と産業構造の変革を伴う大きな挑戦となるでしょう。
私たちが日常的に使うスマートフォンがどこでどのように作られるかという問題は、今後も世界経済と国際関係に影響を与え続けるテーマとなりそうです。
(Via Apple Insider.)
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