アイスホッケーの世界最高峰リーグであるNHL(National Hockey League)が、最新テクノロジーを活用した画期的な取り組みを始めました。
審判団がApple Watchを装着し、試合中のタイミング管理を行うという革新的なシステムです。この新しい取り組みによって、審判はより集中してプレーを見ることができるようになり、試合の質が向上することが期待されています。
審判のための専用アプリ「NHL Watch Comms App」とは
NHLは、AppleとPresidioと提携し、氷上の審判専用に設計された「NHL Watch Comms App」というリアルタイム通知システムを導入しました。このアプリケーションはApple Watch上で動作し、試合中の重要なイベントに関するハプティック(振動)アラートを審判に提供します。
この革新的なシステムは、2024-2025シーズンを通じて既に使用されていますが、屋外環境での初めての使用は、オハイオ州立大学のフットボールスタジアムで開催される予定のデトロイト・レッドウィングスとコロンバス・ブルージャケッツの対戦となるスタジアムシリーズで行われます。
このシステムが開発された背景には、審判が試合中に時計を確認するために視線をそらす必要があったという課題がありました。特に屋外スタジアムでの試合では、時計の配置が会場によって異なるため、審判が時間を確認することがさらに難しくなっていました。
Apple Watchの導入により、審判は氷上のアクションに集中し続けることができるようになりました。
システムの仕組みと機能
「NHL Watch Comms App」は、NHLのOASISフィードから25のデータポイントを活用しています。このOASISフィードは、NHLのEdgeパックおよび選手追跡システムの一部であり、ゲームクロックのステータス、ペナルティタイマー、選手の位置、パックの動きなどのリアルタイムデータを収集しています。
従来のスコアボードに依存する方法とは異なり、審判が着用するApple Watchはセルラー接続機能を持ち、氷上の審判に情報の流れを維持します。ただし、Wi-Fiやセルラーのネットワークに接続の問題が発生する場合もあります。
そのような場合、審判は従来の方法に戻る必要があります。これには、アリーナのスコアボードからの視覚的な手がかりや、バックアップとしての手動のタイムキーピングが含まれます。

NHLのアプリは主に3つの中核機能を提供しています。ゲームクロックの表示、ペナルティを受けた選手のジャージ番号の表示、そしてペナルティタイマーの実行です。パワープレイ(相手チームの選手がペナルティで減った状態)が終わりに近づくと、時計は審判の手首に振動を送信します。
通知の種類ごとに異なる振動パターンが設定されており、審判は氷上から目を離さずに何が起きているかを素早く認識することができます。
時計を追跡するだけでなく、これらのハプティックアラートは時間に敏感な瞬間を管理するために重要です。これらの瞬間には、パワープレイの終了、ピリオドの最終カウントダウン、選手がペナルティボックスを出る準備ができた時などが含まれます。
手首にNHLアプリを使用している審判は、プレーの流れと選手の安全に影響を与える可能性のある重要な試合イベントを見逃すことがなくなります。
NHLとAppleの協力関係の歴史
NHLとAppleのコラボレーションは新しいものではありません。2017年以降、リーグはチームのベンチにiPadを設置し、コーチや選手にリアルタイムのビデオを提供してきました。現在、その焦点は審判に移行しています。
NHLのビジネス開発とイノベーションの執行副社長であるDave Lehanski氏は、この技術の将来の可能性について言及しています。例えば、ハイスティック(パックを肩より高い位置のスティックで打つこと)を検出したり、審判の視線がブロックされている場合にパックがゴールラインを越えたときに審判に警告したりするための技術の使用が考えられています。
新しい技術の採用率は非常に高く、既に90%以上の氷上審判がApple Watchを使用しています。まだ使用していない審判は、カスタムウォッチバンドを待っているとのことです。
スポーツとテクノロジーの融合がもたらす未来
AppleとNHLのこのコラボレーションは、プロスポーツにおけるウェアラブルテクノロジーの統合における新しいベンチマークを設定する可能性があります。Apple Watchの機能が向上し続けるにつれて、他のスポーツリーグにも同様の技術が広がることが予想されます。
スポーツとテクノロジーの融合は、試合の質を向上させるだけでなく、観客のエンゲージメントも高める可能性があります。例えば、将来的には、審判が着用するApple Watchからのデータをリアルタイムで視聴者に提供することも考えられます。これにより、視聴者は審判の視点から試合を体験することができるようになるかもしれません。
また、このような技術の導入は、審判の育成や訓練にも役立つ可能性があります。若手審判は、より経験豊富な審判の判断プロセスを学ぶことができ、より一貫性のある判定を下せるようになるでしょう。
技術導入における課題と展望
新しい技術の導入には常に課題が伴います。Apple Watchを使用したシステムの場合、最も明らかな課題はバッテリー寿命とネットワーク接続の信頼性です。NHLの試合は通常、3時間程度続くため、Apple Watchのバッテリーが一試合を通して持続することが重要です。
また、スタジアム内のネットワーク接続が不安定になる可能性もあります。特に満員のスタジアムでは、多くの観客がスマートフォンを使用するため、ネットワークが混雑する可能性があります。NHLはこれらの課題に対応するためのバックアッププランを用意していますが、技術が進化するにつれて、これらの問題も解決されていくことでしょう。
将来的には、Apple Watchだけでなく、他のウェアラブルデバイスやAR(拡張現実)技術も活用される可能性があります。例えば、審判がAR対応のスマートグラスを着用すれば、氷上を見ながらリアルタイムの情報を視野内で確認することができるようになるかもしれません。
まとめ
審判が時計を確認するために視線をそらす必要がなくなり、より集中して試合を見ることができるようになったことで、試合の質が向上することが期待されています。
このシステムは、リアルタイムの通知、振動アラート、そして明確な情報提供により、審判の判断をサポートします。
特に、パワープレイの終了やピリオドの終了など、時間に敏感な瞬間において、このシステムは非常に有用です。
スポーツとテクノロジーの融合は今後も進化し続けるでしょう。
NHLのこの取り組みは、他のスポーツリーグにも影響を与え、スポーツ全体のデジタル化を促進する可能性があります。
最終的には、これらの技術革新がスポーツの質を向上させ、観客とのエンゲージメントを高めることで、スポーツ体験全体が豊かになっていくことでしょう。
(Via Apple Insider.)
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