私たちの生活に欠かせないスマートフォンのアプリ。中でもAppleのApp Storeは、たくさんの便利なアプリが見つかる場所です。
でも、最近、EU(ヨーロッパ連合)で、App Storeに並ぶ一部のアプリにちょっと気になる変化が起きているんです。「赤いびっくりマーク」みたいなアイコンと一緒に、Appleの支払いシステムを使っていないアプリに対して、ある警告が表示されるようになったらしいのです。
これって一体どういうことなんでしょう?なぜAppleはこのような警告を出すようになったのでしょうか?そして、私たちユーザーにはどんな影響があるのでしょうか?
今回は、このEUで起きているAppleの新しい動きについて、見ていきます。
EUで何が起きているの?Appleの新しい「警告表示」とは
まず、具体的にどんな警告が表示されているのか見てみましょう。Daring Fireballという有名なApple関連の情報サイトのJohn Gruberさんが発見したのですが、EUのApp Storeで「Instacar」というアプリのページに、この警告が表示されていました。
Instacarってどんなアプリ?
Instacarは、ハンガリーの企業が開発した、中古車の走行距離や価値を調べられるアプリです。米国のApp Storeにはないそうですが、EUのハンガリーではビジネス系アプリの上位に入るほど人気があるアプリなんですよ。特に怪しいサービスというわけではなく、たくさんの良いレビューもついているそうです。
それなのに、なぜこのアプリに警告が出るのでしょうか?Appleの言い分としては、InstacarがApp Storeの支払いシステムではなく、「外部の支払いシステム」を使っているからだそうです。
Appleが示す警告の内容
具体的に表示される警告メッセージは、赤いびっくりマークのアイコンと一緒に、InstacarがAppleの「プライベートで安全な支払いシステム」を使っていない、ということをユーザーに知らせるものです。
さらに、Appleのサポートページへのリンクも添えられていて、そこには次のようなことが書かれています。
「デベロッパーの外部ウェブサイトでアカウントを作成する場合、支払い情報を含む個人情報をデベロッパーや第三者のパートナーに直接提供する必要がある場合があります。」
「お客様は、デベロッパー、および彼らが協力するパートナーや決済プロバイダーが、彼らのプライバシーおよびセキュリティ管理に基づいてお客様の情報を処理することを信頼することになります。」
つまり、Appleの支払いシステムを使わない場合、ユーザーはアプリ開発者やその提携先、決済サービス提供者に個人情報や支払い情報を預けることになり、そのセキュリティやプライバシーはその事業者次第ですよ、ということですね。
また、Appleのシステムで支払った場合に使える「購入履歴の確認」や「ファミリー共有」、「サブスクリプションの一括管理」といった機能が使えなくなることも伝えられています。
ここで大切なのは、この警告表示が、必ずしもそのアプリ自体が「危ないアプリだ!」という意味ではない、という点です。あくまで、Appleの支払いシステムを使わない場合に、ユーザーが知っておくべきことや、使えなくなるAppleの機能がある、といった事実を伝えているんです。
Appleとしては、自社の決済システムが一番安全だと考えていて、それを使わない場合のユーザーのリスクについて注意喚起している、という立場なのでしょう。
Appleの警告は「怖がらせている」?EUでの規制の動き
しかし、このAppleの警告表示、ただの注意喚起として見られているわけではないんです。実は、EUでは以前からAppleのApp Storeに関するルールに対して、厳しい目が向けられています。
EUの欧州委員会は、Appleが別のアプリストア(代替アプリマーケットプレイス)をiPhoneにインストールするのを、ユーザーにとって「非常に負担が大きく、分かりにくい」ものにしている、という予備的な調査結果を発表しています。
これは、別のアプリストアをインストールしようとすると、Appleが表示するいくつかの「怖がらせるような画面(scare sheets)」をユーザーが何度もクリックして、本当にインストールするか確認させられるプロセスを指しています。
今回の外部決済に関する警告も、「ユーザーを怖がらせて、外部での支払いを思いとどまらせようとしているのではないか?」という見方があるんです。Appleとしてはユーザーの安全のためと言っているのかもしれませんが、EU側からは、Appleが自社の決済システム以外を使わせないようにするための「戦術」の一つと捉えられている可能性も十分にあります。
米国での裁判と今回の警告の違い
実は、似たような話は米国でもありました。有名なゲーム会社であるEpic GamesがAppleを訴えた裁判です。この裁判の中で、Appleがアプリ開発者に対し、アプリ内で外部の支払いシステムへのリンクを張ることを制限していることなどが争われました。
その裁判の結果、米国では、Appleはアプリから外部の購入システムへユーザーを誘導する際に、ユーザーを「怖がらせる」ようなメッセージではなく、「第三者のサイトに移動します」といった中立的なメッセージしか表示できないようにと、裁判所から差し止め命令が出されています。
しかし、今回のEUでの警告は、赤いびっくりマークを使ったり、安全性について言及したりと、どう見ても「中立的」なメッセージではありません。そして、この米国での裁判の差し止め命令は、米国国外では適用されないのです。だからこそ、AppleはEUでは米国とは異なる、より強い警告表示を出せているのかもしれません。
EUは独自のルール(デジタル市場法など)で巨大IT企業を規制しようとしており、AppleのApp Storeの運営方法もその対象となっています。今回の警告表示は、そうしたEUの規制強化の動きの中で出てきたものと言えるでしょう。
ユーザーとしてはどう考えればいい?
では、私たちユーザーは、この状況をどう考えればいいのでしょうか。
先ほどもお話ししたように、この警告表示は、そのアプリ自体が危険だと言っているわけではありません。あくまで、外部決済を利用する場合の事実、つまりAppleの決済システムを使わないとどうなるか、という情報を提供しているんです。
Appleが言うように、外部の支払いシステムを使う場合、その開発者やサービス提供者が個人情報や支払い情報をどのように扱うのか、ユーザー自身が注意する必要があります。AppleのApp Storeを通じた支払いは、ある意味でAppleという大きな会社が間に入ることで、一定の安心感があるのは確かです。
一方で、外部決済を利用することで、アプリの価格が少し安くなったり、Appleのシステムにはない支払い方法が使えたりする可能性もあります。これはユーザーにとってメリットになる場合もありますよね。
結局のところ、どの支払い方法を選ぶかはユーザー自身の判断になります。Appleの警告は、外部決済のリスクについて注意を促す側面があるのは事実です。しかし、それがApple自身の利益を守るためのものだという側面も否定できません。
もし、外部決済を提供するアプリを使う場合は、そのアプリやサービスの提供元が信頼できるかどうか、プライバシーポリシーなどを確認することが大切になるでしょう。そして、Appleの支払いシステムを使った場合のメリット(ファミリー共有など)と、外部決済を使った場合のメリット(価格など)を比べて、自分にとってより良い方を選ぶのが賢明と言えそうです。
まとめ
Appleはセキュリティや機能面から注意喚起だとしていますが、EU側からは、Appleが自社の決済システム以外を使わせないための「怖がらせる戦術」ではないかという見方も出ており、規制の動きと関連しています。
この警告表示は、アプリ自体が危険という意味ではなく、あくまでApple以外の決済を使う場合の事実(Appleの機能が使えない、情報管理は開発者次第など)を伝えているものです。
米国の裁判では中立的なメッセージしか表示できないとされていますが、その命令はEUには適用されません。この問題は、巨大IT企業の力と、ユーザーの選択肢、そして各地域の規制当局のせめぎ合いを示しています。
ユーザーとしては、警告の内容(事実として何が起きるか)を理解した上で、利用するアプリやサービスの信頼性を確認し、自分にとって最適な支払い方法を選ぶことが重要になるでしょう。
(Via The Verge.)
LEAVE A REPLY