欧州連合(EU)のデジタル市場における巨大テック企業の規制が強化される中、音楽ストリーミング業界でも新たな展開が見られています。

EUの音楽ストリーミング市場で最大のシェアを誇るSpotifyが、長年のライバルであるAppleに対して、EU規制当局による制裁金の発動を求める声明を出しました。この動きは、両社の間で長く続く緊張関係がさらに高まっていることを示しています。

SpotifyのCEO、DMA違反でAppleへの制裁を要求

Spotifyの最高経営責任者(CEO)であるDaniel Ek氏は、最近Bloombergのインタビューにおいて、「すでに可決された法律を実際に執行する時が来た」と強調しました。彼はAppleがEUのデジタル市場法(Digital Markets Act、DMA)の要件を十分に遵守していないと主張しています。


Ek氏によれば、Appleは「遅延と引き延ばしの確立されたパターン」を使用しているといいます。具体的には、AppleはApp Storeに関する反ステアリング(利用者を自社の支払いシステム以外に誘導することを禁止する)ルール、サードパーティブラウザのサポート、そしてサードパーティアプリマーケットプレイスに対して導入された新料金体系について、DMAに違反している疑いで調査を受けています。この調査は2024年3月に開始されました。

もし規制違反が認められた場合、EU規制当局はAppleの世界年間売上高の最大10%に相当する制裁金を課す可能性があります。EUの競争政策担当責任者であるTeresa Ribera氏は、この決定が来年3月に発表される予定であると述べています。
Apple vs Spotfy_02.

Appleの対応と両社の確執の歴史

一方、Appleは自社のDMA遵守対策は十分であると主張しています。しかし、その主張は決して静かなものではありません。同社はサードパーティのアプリストアのリスクに関する白書を公開し、さらにEUの相互運用性法に関する懸念を述べた別の白書も発表しています。

これはEk氏がAppleへの制裁金を求めて規制当局に働きかけた初めての事例ではありません。2019年にも、SpotifyはAppleがApp Storeの支払いシステムの使用を開発者に強制することで独占的地位を乱用していると主張し、EUに訴えました。

Spotifyは、Appleが「アップグレード方法や定期購読の価格、プロモーション、割引、その他多くの特典について顧客とコミュニケーションする能力を否定」することで、「Spotifyや他の音楽ストリーミングサービスを黙らせた」と主張しました。その結果、EUは2024年にAppleに対して19.5億ドル(約2,900億円)の制裁金を課しました。

欧州音楽ストリーミング市場の現状

欧州の音楽ストリーミング市場において、Apple Musicは第3位か第4位のサービスであり、市場シェアはトップ企業の約半分にとどまっています。そのトップ企業こそがSpotifyであり、欧州ストリーミング市場の約56%のシェアを握っています。

この状況は、市場支配的な企業が、自身よりも小さなライバル企業に対して規制当局の介入を求めるという、一見矛盾した構図を生み出しています。しかし、この事例はデジタルプラットフォーム市場における複雑な力関係を表しており、単純な市場シェアだけでなく、各プラットフォームが持つエコシステムの影響力が重要な要素となっています。
Apple vs Spotfy_03.

デジタル市場法(DMA)の意義と今後の展望

EUのデジタル市場法は、大手テクノロジー企業に対する規制を強化し、より公平な競争環境を作ることを目指しています。この法律は、いわゆる「ゲートキーパー」と呼ばれる市場支配的なデジタルプラットフォームに対して、より厳しい規則を適用するものです。

DMAの施行により、ユーザーがより多くの選択肢を持ち、デジタルサービスの価格が下がり、イノベーションが促進されることが期待されています。しかし、その実効性は規制当局の執行力にかかっています。Spotifyの要求は、この点についての試金石となる可能性があります。

今後数か月間でEU当局がどのような判断を下すかは、デジタル市場の将来の姿を大きく左右するでしょう。制裁金が課されれば、大手テック企業は規制遵守についてより真剣に取り組むことになるかもしれません。一方で、規制当局の判断が甘くなれば、DMAの実効性に疑問が投げかけられることになります。

まとめ

EUの音楽ストリーミング市場で支配的な地位を占めるSpotifyとAppleの争いは、デジタル経済における規制と競争の複雑な問題を浮き彫りにしています。
Spotifyの制裁金要求が認められるかどうかは、EUのデジタル市場法の実効性を示す重要な指標となるでしょう。

この事例は、市場シェアという単純な指標だけでなく、プラットフォームのエコシステムが持つ影響力や、その規制のあり方についての重要な問いを投げかけています。
来年3月に予定されているEU当局の決定は、デジタル市場の今後の方向性を示す重要な分岐点となりそうです。

(Via Apple Insider.)


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