Appleの長年課題となっていた音声アシスタント「Siri」が、ついに本格的な刷新に向けて動き出しました。

以前からSiriは競合他社のAIアシスタントと比較して機能面で後れを取っていましたが、今回の改革でどのような変化が期待できるのでしょうか。Appleが新たに起用したリーダーとその戦略について。

新リーダーMike Rockwellとは

Appleが新たにSiriのエンジニアリング責任者として任命したのは、Mike Rockwell氏という人物です。Rockwellは以前、Appleの最新デバイスである「Apple Vision Pro」の開発を率いていたVision Products Groupのトップでした。Apple Vision Proは空間コンピューティングという新しい領域に挑戦した革新的な製品として評価されています。


このRockwell氏が抜擢された背景には、Siriの開発が遅れていることや技術的な問題が続いていたという事情があります。これらの問題を解決するため、AppleのCEOであるTim Cook氏は新たなリーダーシップを求めたのです。

Rockwell氏の任命は前月に発表されましたが、この人事異動により、従来のAI責任者John Giannandrea氏と前Siri責任者のRobby Walker氏からいくつかの責任が取り除かれることになりました。

Siri改革の具体的な取り組み

Rockwell氏は就任後すぐに、信頼できる部下たちをSiriチームに迎え入れる動きを見せています。主な人事は以下の通りです。

  • Ranjit Desai:Vision Proの開発において長年Rockwell氏の右腕として活躍してきた人物で、現在はSiriのエンジニアリングの大部分を担当することになりました。特に基盤となるプラットフォームとシステムグループを指揮します。
  • Olivier Gutknecht:Vision Proのソフトウェア幹部だった同氏はSiriのユーザーエクスペリエンスを担当するチームのリーダーに就任しました。
  • Nate Begemanと Tom Duffy:さらに、Appleのベテランソフトウェアエンジニアリングマネージャーである両氏も、Siriの基盤となるアーキテクチャーを担当するためにチームに加わりました。
  • Stuart Bowers:データ、トレーニング、評価チームを率います。また、Siriのユーザーコマンド理解能力の向上にも取り組みます。

これらの人事変更に加えて、Rockwell氏は音声認識や理解力、パフォーマンス、ユーザー体験に焦点を当てたチームの再編成も行っています。この再編の目的は、開発プロセスを効率化し、長い間放置されてきたSiriの機能を強化することにあります。

Siriが直面してきた課題

Siriの改善はAppleにとって最も注目度の高い課題の一つとなっています。2011年に初めて発表されたこの技術は、GoogleやOpenAIといった競合他社の製品に比べて遅れを取っており、Appleが急成長する人工知能分野でうまく立ち位置を見つけられていない象徴となっていました。

実際、AppleのAIと機械学習のチームは社内で「AI/MLess(AIなし・機械学習なし)」と揶揄されるほど、長期にわたり管理上の問題や哲学的な意見の相違、実行上の問題に悩まされてきました。このような状況を改善するため、Rockwellは抜本的な改革に取り組んでいるのです。

新Siriの目指す方向性

Rockwell氏の計画によると、Siriのアーキテクチャーは完全に刷新され、より会話的なユーザーインターフェースを実現するために単一のLLM(大規模言語モデル)ベースのシステムを使用する予定です。この大幅なアップグレードは、完了するまでに数年かかると見込まれています。

現在のSiriには2つのチームがあります。一つは日常的なタスクに焦点を当てたチーム、もう一つは大規模言語モデル(LLM)に焦点を当てたチームです。Rockwell氏はこれらを統合し、より一貫性のあるユーザー体験を提供することを目指しています。

Siriの課題解決に向けた今後の展望

Siriの改革はすでに始まっていますが、その成果が実を結ぶまでには時間がかかりそうです。実際、当初予定されていた「画面認識機能」(画面に表示されている内容に基づいてリアルタイムで情報を検索する機能)などの重要な機能の実装は延期されています。

このことから、WWDC 2025(Apple開発者会議)でのApple Intelligence(Appleの人工知能技術)に関する大きなアップデートは期待薄かもしれません。実際、Appleが本格的にSiriの問題に取り組み始めたのは、その課題が明らかになってからのようです。

しかし、競合他社が急速に進化している現状を考えると、Appleには追いつくための十分な時間があるのでしょうか。GoogleのアシスタントやMicrosoftのコパイロットなど、他社のAIアシスタントはすでに高度な機能を実装しており、この分野での競争は激化する一方です。

Siriにブランド刷新は必要か

興味深いのは、一部では「Siriのブランド自体を刷新すべきではないか」という意見も出ていることです。

長年の放置や不完全な機能、空約束などによって築かれてきた否定的なイメージを持つSiriというブランドを継続するよりも、もしAppleが本当にSiriを改善できるなら(過去にも同様の約束はありましたが)、全く新しいものとして新ブランドで導入した方が良いのではないかという考え方です。

これによりSiriという名前の重荷を背負うことなく、全く新しいサービスとして出発できるというメリットがあります。もちろん、そのためにはまず本当の意味での機能向上が必要であることは言うまでもありません。

まとめ

Appleが長年課題としてきたSiriの改革が、Vision Proを成功に導いたMike Rockwell氏のリーダーシップのもとで動き出しました。
Rockwell氏は信頼できる部下を引き連れ、Siriの音声認識や理解力、パフォーマンス、ユーザー体験の向上に取り組んでいます。

しかし、GoogleやOpenAIといった競合他社も急速に進化を続けているため、Appleがこの分野で再び主導権を握るには、革新的なアプローチが必要とされています。
新チームによる改革の成果が実を結ぶには数年かかるとされていますが、ユーザーにとっては、より賢く使いやすいSiriへの進化に期待したいところです。

Siriが真の意味でパーソナルアシスタントとして機能するようになれば、iPhoneやMac、Apple Watchといったデバイスの価値も大きく向上するでしょう。

(Via BGR.)


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