日本のiPhoneに重大変更、代替アプリストアと決済方法が解禁へ──スマホ競争促進法への対応でAppleが発表

Appleは2025年12月17日、日本のiOSに関する大規模な変更を発表しました。これは「スマートフォンソフトウェア競争促進法」への対応として実施されるもので、App Store以外でのアプリ配信や、Apple以外の決済方法の導入など、iPhoneユーザーとアプリ開発者の両方に影響する内容となっています。
何が変わるのか──代替アプリマーケットプレイスが日本でも利用可能に
今回の変更で最も注目されるのが、App Store以外の「代替アプリマーケットプレイス」の登場です。これまで日本のiPhoneユーザーは、アプリをダウンロードする際はApp Storeを利用するしかありませんでしたが、今後は他の企業が運営するアプリストアからもアプリをインストールできるようになります。
ただし、代替アプリマーケットプレイスを運営するには、Appleによる認証が必要です。また、Appleは「公証」という基本的な審査プロセスを導入し、すべてのiOSアプリに対して、マルウェアやウイルスなどの深刻な脅威がないかを確認します。この公証プロセスは自動チェックと人の手による審査を組み合わせたものですが、App StoreのApp Reviewプロセスよりは限定的な内容となっています。
正直言って、これまでApp Storeが提供してきた厳格な審査による安全性の保証が、代替マーケットプレイスでは同じレベルでは期待できないという点は、ユーザーにとって重要な検討材料になるでしょう。
決済方法にも選択肢が登場──Apple以外の支払い方法が可能に
もう一つの大きな変更は、アプリ内での決済方法です。これまで日本のApp Storeでは、デジタル商品やサービスの購入にはAppleのアプリ内購入システムを使用する必要がありましたが、今後はアプリ開発者が代替の決済処理方法を提供できるようになります。
具体的には、アプリ内に代替決済処理方法を組み込んだり、ユーザーをウェブサイトに誘導して決済を行ったりすることが可能になります。ただし、これらの代替決済オプションは常にAppleのアプリ内購入と併せて提示されるため、ユーザーは自分がどの決済方法を使っているのかを明確に認識できます。
Appleのアプリ内購入を選択した場合は、これまで通り返金サポートやサブスクリプション管理、「問題を報告」などの保護機能が利用できます。一方、代替決済を利用した場合、Appleは返金対応ができず、詐欺や不正行為の被害に遭った際のサポートも限定的になります。また、支払い情報をより多くの第三者と共有する必要が生じるため、プライバシーやセキュリティ上の新たなリスクも伴います。
手数料体系が大幅に変更──開発者の選択肢が増える一方で複雑化も

今回の変更に伴い、Appleは日本のiOSアプリ向けの手数料体系も刷新しました。新しい手数料体系は以下の通りです。
App Store上でアプリを配信する場合、手数料が減額され、Small Business ProgramやVideo Partner Program、Mini Apps Partner Programのメンバー、および2年目以降のサブスクリプションは10パーセントの手数料となります。その他の場合はデジタル商品およびサービスの決済取引の21パーセントです。
Appleのアプリ内購入を使用した決済処理には、追加で5パーセントの料金が発生します。また、App Store上のアプリがウェブサイトへのリンクを通じて決済を行った場合、ストアサービスの手数料として15パーセント(対象プログラム参加者と2年目以降のサブスクリプションは10パーセント)が課されます。
App Store以外の場所で配信されたアプリには、「コアテクノロジー手数料(CTC)」として、デジタル商品やサービスの売上の5パーセントが適用されます。これは、Appleが提供する開発ツールやテクノロジー、サービスに対する対価とされています。
Appleによれば、これらの新しい取引条件のもとでは、日本でデジタル商品やサービスを販売する開発者が支払う手数料は、現在と同額またはより少なくなるとのことです。
子どもの安全対策が重要課題に──新たなリスクへの対応策
Appleが今回の変更発表で特に力を入れて説明したのが、子どもの安全対策です。代替アプリマーケットプレイスや代替決済方法の導入により、子どもが有害なコンテンツや詐欺の標的になるリスクが高まることを懸念しているためです。
実際、ヨーロッパで同様の規制変更が行われた際には、それまでiOSでは提供できなかったポルノアプリなどが利用可能になっているとAppleは指摘しています。
このため、Appleは日本の規制当局と連携し、以下のような保護策を導入しています。App Storeの「子ども向け」カテゴリには、決済を実行するウェブサイトへのリンクが含まれません。18歳未満のユーザーが代替決済を利用するアプリで購入する際には、保護者の関与を必要とするペアレンタルゲートが必須となります。13歳未満のユーザーの場合は、App Storeのアプリで決済を実行するウェブサイトへのリンク自体が使用できません。
さらに、Appleは代替決済を利用する開発者向けに、保護者が購入を監視・承認できる新しいAPIも提供する予定です。
その他の機能追加──ブラウザや検索エンジンの選択も可能に
iOS 26.2のリリースに伴い、日本のユーザーは以下のような追加機能も利用できるようになります。
ブラウザ選択画面と検索エンジン選択の機能により、ユーザーは好みのブラウザと検索エンジンを選べるようになります。ナビゲーションアプリやアプリマーケットプレイスのデフォルト設定も変更可能になります。これらの設定は、いつでも「設定」アプリから確認・調整できます。
開発者向けには、WebKit以外の代替ブラウザエンジンの使用が許可されます(厳格なセキュリティおよびプライバシー要件を満たす必要があります)。音声ベースの会話型アプリの開発者は、iPhoneのサイドボタンでアプリを起動するオプションをユーザーに提供できる新しいAPIも利用可能になります。
なぜこの変更が必要なのか──スマートフォンソフトウェア競争促進法とは
今回の変更は、日本の「スマートフォンソフトウェア競争促進法」への対応として実施されるものです。この法律は、スマートフォン市場における公正な競争を促進することを目的としており、App Storeのような巨大プラットフォームが持つ独占的な地位に対する規制として機能します。
Appleは法令を遵守する一方で、新たなリスクに対する保護策の重要性も強調しています。代替アプリマーケットプレイスや代替決済方法の導入により、マルウェア、不正行為、詐欺、プライバシーやセキュリティ上のリスクなどの新たな脅威が生まれる可能性があるためです。
やはり、これまでAppleが構築してきた「App Storeエコシステム」の安全性と利便性と、新しい選択肢がもたらす自由度やコスト削減のメリットを、ユーザー自身が天秤にかけて判断する時代が来たと言えるでしょう。
ユーザーが知っておくべき注意点
今回の変更により選択肢が増える一方で、ユーザーが注意すべき点もあります。
まず、App Store以外からダウンロードしたアプリは、App Reviewと同等の厳格な審査を受けていない可能性があります。公証プロセスは基本的な安全性のチェックには有効ですが、詐欺や悪用、不法・不快・有害なコンテンツを含むアプリのリスクは高まります。
次に、代替決済を利用する場合、返金やサポートの面でAppleの保護が受けられなくなります。支払い情報も複数の事業者と共有する必要が生じるため、情報漏洩のリスクも考慮する必要があります。
子どものデバイスを管理している保護者の方は、ペアレンタルコントロールの設定を改めて確認し、代替アプリマーケットプレイスの利用制限や決済方法の管理を適切に行うことが重要です。
まとめ──選択肢の拡大と責任の増大
Appleの今回の発表は、日本のiPhoneユーザーにとって大きな転換点となります。これまでAppleが管理してきた「クローズドなエコシステム」に新しい選択肢が加わることで、ユーザーと開発者の自由度は確実に高まります。
一方で、その自由には責任も伴います。どのアプリマーケットプレイスを信頼するか、どの決済方法を選択するか、子どものデバイスをどう管理するか──これらの判断は、今後ユーザー自身に委ねられる部分が大きくなります。
iOS 26.2は本日よりリリースされ、開発者は新機能を自身のアプリに統合できるようになっています。詳細な情報は、AppleのDeveloperサポートページで確認できます。
新しい時代のiPhoneの使い方について、ユーザー一人ひとりが考えるべき時期が来たと言えるでしょう。
出典
- Apple Newsroom Japan「Apple、日本でのiOSにおける変更を発表」(2025年12月17日)
- Apple Developer「日本でのアプリ配信に関するサポート」

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