日本でもついにAppleとGoogleが規制される?新法で変わるスマホアプリの世界

あなたは普段、App StoreやGoogle Play以外でアプリをダウンロードしたことがありますか?実は、これまで日本のiPhoneやAndroidスマートフォンでは、基本的にAppleやGoogleが運営する公式ストア以外からアプリを入手することは難しい状況が続いていました。
しかし、2025年12月18日から施行される新しい法律により、この状況が大きく変わろうとしています。ただし、同様の規制を先行導入したEUでは、ユーザーが予想もしなかった深刻な問題が発生しています。
この記事では、日本の公正取引委員会が発表した新ガイドラインの内容と、私たちのスマートフォン利用にどのような影響があるのかを詳しく解説します。
公正取引委員会が動いた背景
日本の公正取引委員会は、2020年からAppleとGoogleがスマートフォン市場で持つ圧倒的な影響力について調査を続けてきました。
両社は自社のアプリストア(App StoreとGoogle Play)を通じてアプリの配信を独占し、アプリ内課金でも手数料を徴収しています。この手数料は通常30%と高額で、アプリ開発者にとって大きな負担となっていました。
例えば、1,000円のアプリを販売した場合、開発者の手元には700円しか残らないということです。音楽配信アプリのSpotifyや動画配信サービスのNetflixなどの大手企業も、この手数料の高さに不満を表明していました。
こうした状況を受けて、日本政府は「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」を制定。この法律に基づき、公正取引委員会が今回の新ガイドラインを策定したのです。
新ガイドラインの具体的な内容
公正取引委員会が発表したガイドラインには、AppleとGoogleが守るべき具体的なルールが明記されています。
サードパーティアプリストアの解禁
最も注目すべき変更は、第三者が運営するアプリストアの利用が可能になることです。
これまでiPhoneユーザーはApp Store、AndroidユーザーはGoogle Playからしかアプリをダウンロードできませんでした。しかし新法施行後は、Amazon AppstoreやSamsung Galaxy Storeのような別の企業が運営するアプリストアも利用できるようになります。
決済システムの選択肢拡大
アプリ内で課金する際の決済システムについても、AppleやGoogle以外の選択肢が使えるようになります。
現在、アプリ内課金では必ずAppleやGoogleの決済システムを使う必要があり、ここで30%の手数料が発生していました。新ガイドラインにより、PayPayやクレジットカード会社が直接提供する決済システムなど、より手数料の安い選択肢が利用可能になる可能性があります。
自社アプリの優遇禁止
AppleとGoogleは、自社のアプリを競合他社のアプリより有利に扱うことが禁止されます。
例えば、AppleのSafariブラウザやGoogleのChromeブラウザが、他社のブラウザアプリよりも検索結果で上位に表示されるような操作は認められなくなります。

開発者から見た新法のメリット・デメリット
この新法について、アプリ開発者の間では賛成派と反対派に意見が分かれています。
賛成派開発者のメリット
- 手数料の大幅削減: 現在30%の手数料が10%程度まで下がる可能性
- 収益の改善: 月商100万円なら20万円のコスト削減効果
- アプリ配信の機会拡大: AppleやGoogleの審査に通らなかったアプリも配信可能
- ニッチなアプリの配信: 教育系や業務用アプリなど特定分野での機会増加
- 開発資金の確保: 浮いた手数料を品質向上に投資可能
反対派開発者のデメリット
- セキュリティリスクの増加: 不正アプリの混在による全体的な信頼低下
- マーケティング支援の減少: AppleやGoogleが提供していた宣伝機能の喪失
- 複数プラットフォーム対応の負担: 各アプリストアに合わせた開発コストの増加
- 収益の分散: ユーザーが複数のストアに分散することによる売上への影響
- 技術サポートの複雑化: 異なるプラットフォームでの問題対応が困難

ユーザーから見た新法のメリット・デメリット
賛成派ユーザーのメリット
- 選択肢の大幅拡大: これまで利用できなかった海外アプリへのアクセス
- 価格競争による恩恵: アプリ価格の低下や無料化の可能性
- 多様なアプリの登場: ニッチな需要に応える特殊アプリの増加
- 決済手数料の削減: より安い決済システムの利用による間接的な値下げ効果
- 自由度の向上: AppleやGoogleの制限に縛られない選択権
反対派ユーザーのデメリット
- セキュリティリスクの増加: 信頼性の低いアプリストアからの不正アプリ流入
- 操作の複雑化: 複数のアプリストアや決済システムの使い分けが必要
- サポート体制の分散: 問題発生時の連絡先や対応窓口の混乱
- 高齢者への負担: 新しいシステムを覚える必要性
- 統一性の喪失: 現在の分かりやすい一元管理システムの変化
- 新機能へのアクセス制限: AppleやGoogleが新しいOS機能を日本で提供しなくなるリスク
- イノベーションの遅れ: 規制対応に追われることで技術革新が後回しになる可能性

私たちの生活にどんな影響があるのか
これらの変更は、スマートフォンを使う私たち一般ユーザーにとってどのような意味を持つのでしょうか。
アプリの価格が下がる可能性
最も直接的な影響は、アプリの価格低下です。開発者がAppleやGoogleに支払う手数料が削減されれば、その分をアプリの価格に反映できるようになります。
例えば、月額1,000円のアプリが800円程度になったり、これまで有料だったアプリが無料になったりする可能性があります。
より多様なアプリの登場
AppleやGoogleの厳格な審査基準に通らなかったアプリも、第三者のアプリストアでは配信される可能性があります。
これにより、これまで利用できなかった海外のアプリや、ニッチな需要に応えるアプリなど、選択肢が大幅に広がることが期待されます。
セキュリティ面での注意が必要
一方で、注意すべき点もあります。AppleやGoogleのアプリストアは厳格なセキュリティチェックを行っていますが、第三者のアプリストアでは必ずしも同じレベルの安全性が保証されるとは限りません。
アプリをダウンロードする際は、提供元の信頼性を確認し、不審なアプリは避けるという意識がより重要になってきます。

EUの事例が示す深刻な問題:最新技術から取り残されるリスク
既に類似の法規制が導入されているEUでの状況を見ると、賛成派と反対派、双方の予想が部分的に現実となっています。しかし、最も深刻な問題は誰も予想していなかった形で現れました。
EUでは2024年3月からデジタル市場法(DMA)が施行され、AppleはEU向けに「App Store以外からのアプリインストール」を可能にしました。しかし、実際に第三者のアプリストアを利用しているユーザーは全体の数パーセント程度にとどまっています。
「結局、慣れ親しんだApp Storeから離れる理由がそれほどないんです」また「第三者のアプリストアも試してみましたが、品揃えや使い勝手の面でApp Storeの方が優れていると感じました」とEUのエンジニアの意見も在ります。
規制による意外な副作用:新機能の提供停止
しかし、EUでの事例で最も問題となっているのは、Appleが新しい機能をEU地域で提供しないケースが増えていることです。
2024年6月に発表されたApple Intelligence(AI機能)は、当初EU地域では利用できませんでした。AppleはDMAの規制要件を満たすために必要な開発工程が複雑すぎることを理由に挙げています。また、iPhone Mirroring(iPhoneの画面をMacで操作する機能)やSharePlay Screen Sharing(画面共有機能)なども、EU地域では制限されています。
「規制が厳しすぎて、結果的に私たちユーザーが最新技術から取り残されるなんて本末転倒です」また「友人のアメリカ人が使っているAI機能を、私のiPhoneでは使えないんです。これが規制の成果なんでしょうか」と一部のユーザーは憤ります。
国家による技術制限への懸念
この問題は、単なる企業対規制当局の問題を超えて、国家が技術の進歩を制限する権限を持つべきかという根本的な疑問を提起しています。
テクノロジーライターの山本氏は次のように指摘します。「政府が市場競争を促進しようとして、結果的に国民が最新技術にアクセスできなくなるというのは、明らかに政策の失敗です。特にAIのような急速に発展している分野では、数ヶ月の遅れが数年分の技術格差を生む可能性があります」
実際、EU地域のiPhoneユーザーの間では「アメリカ版iPhoneに機種変更したい」という声も上がっており、皮肉にも規制によってユーザーの選択肢が狭まる結果となっています。
日本への影響予測
日本でも同様の事態が起こる可能性は十分にあります。Apple Intelligenceのような高度なAI機能や、将来的に開発される革新的な機能が、規制対応の複雑さを理由に日本では提供されないかもしれません。
「規制することで競争を促進するはずが、結果的に日本のユーザーが世界の技術革新から取り残される可能性があります」と情報通信政策の専門家である東京大学の田中教授は警告しています。「政府は市場の番人であるべきで、技術革新の妨げとなってはいけません」
一方で、開発者にとってのメリットは確実に現れています。特に大手アプリ開発会社では、第三者の決済システムを導入することで手数料を削減し、その分をユーザーへの還元や新機能の開発に充てるケースが増えています。

世界的な規制の流れと日本の位置づけ
今回の日本の動きは、世界的なテクノロジー企業規制の流れの一部です。
ヨーロッパでは2024年から「デジタル市場法(DMA)」が施行され、AppleとGoogleに対して同様の規制が始まっています。アメリカでも反トラスト法に基づく調査が進行中です。
日本の新法は、これらの国際的な動向と歩調を合わせたものと言えます。特にEUの規制内容と多くの共通点があり、グローバルスタンダードに合わせた規制となっています。
しかし、EUでの新機能制限問題を受けて、規制の在り方について見直しを求める声も高まっています。競争促進と技術革新のバランスをどう取るかが、今後の大きな課題となりそうです。
施行までのスケジュールと今後の展開
新法は2025年12月18日に全面施行される予定です。
公正取引委員会は7月29日に関連政令を発表し、105件の意見を踏まえて最終的な内容を決定しました。AppleとGoogleは施行日までに、年次コンプライアンス報告書の提出体制なども整備する必要があります。
両社がどのように対応するかによって、実際にユーザーが体感できる変化の程度が決まってきます。EUでの対応を見る限り、段階的に変更が実装される可能性が高いでしょう。ただし、EUと同様に新機能の提供が制限される可能性も否定できません。

まとめ:規制と技術革新のバランスが重要
日本の公正取引委員会による新ガイドラインは、私たちのスマートフォン利用環境を大きく変える可能性を秘めています。
開発者とユーザー、それぞれにメリットとデメリットがある中で、特に注意すべきはEUで起きているような新機能制限のリスクです。規制によって競争は促進されるかもしれませんが、その代償として最新技術へのアクセスが制限される可能性があります。
アプリの選択肢が増え、価格競争が生まれることで、ユーザーにとってより良いサービスが生まれることが期待されます。一方で、セキュリティ面での自己防衛の重要性と、技術革新から取り残されるリスクの両方に注意が必要です。
2025年12月の施行に向けて、AppleとGoogleがどのような対応を取るのか、そして実際にどの程度の変化が生まれるのか、EUの事例を教訓としながら慎重に見守る必要があります。
私たちユーザーとしては、規制がもたらす変化を理解し、メリットを享受しながらもリスクを回避できるよう、賢明な判断を下していくことが大切です。
(Via 経済産業省公正取引委員会.)


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