iPhoneに関税25%でも米国内生産は割高?Appleの戦略とは

iPhoneに関税25%でも米国内生産は割高?Appleの戦略とは

2025年5月23日、トランプ大統領はAppleのiPhoneに対して25%の関税を課すと発表しました。この発表は即座にAppleの株価を下落させましたが、著名アナリストのMing-Chi Kuo氏は、この関税があってもAppleが製造拠点を米国に移すことはないだろうと分析しています。


なぜAppleは高い関税を支払ってでも、現在の製造体制を維持するのでしょうか。その背景には、複雑な経済的要因と現実的な課題が存在します。

関税よりも高額な米国製造移転コスト

Appleが米国での製造に踏み切らない最大の理由は、移転にかかる莫大なコストです。アナリストのDan Ives氏の試算によると、Appleがサプライチェーンのわずか10%を米国に移すだけでも、300億ドル(約4兆円)のコストが発生し、最低でも3年の期間が必要とされています。

さらに驚くべきことに、投資会社モルガン・スタンレーは、完全な製造移転には数千億ドル規模の投資が必要になると予測しています。実際に、TSMCがアリゾナ州に建設中の2つのプロセッサー工場だけでも、すでに400億ドルの費用がかかっているのです。

これらの数字と比較すると、25%の関税による四半期あたり9億ドルの負担は、移転コストに比べて現実的な選択肢となります。Appleほどの巨大企業であれば、この追加コストを吸収することは十分可能だと考えられています。
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技術者不足という根本的な問題

製造業の米国回帰を真剣に目指すのであれば、熟練した技術者の大量育成が不可欠です。しかし、現在の政策では教育投資よりも関税による圧力に重点が置かれています。

半導体製造のような高度な技術を要する分野では、単に工場を建設するだけでは不十分で、専門知識を持った大量の技術者が必要になります。こうした人材の育成には長期間を要するため、短期的な関税政策だけでは根本的な解決には至らないのが現状です。
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関税の実際の影響と企業戦略

今回の25%関税は、iPhoneの輸入価格に対して課せられるものであり、最終的な小売価格への影響は製品によって異なります。iPhone 16 Pro MaxとiPhone 16では、同じ25%でも実際の負担額に差が生じることになります。

Appleは関税発表以前から、貿易摩擦の影響を最小限に抑えるためのサプライチェーン再編を進めてきました。2018年には、iPhone組み立て企業のPegatronが貿易緊張の影響で中国からの移転を検討していると報じられました。

2024年までに、Appleのサプライヤー各社はインドなどへの移転計画に160億ドル以上を投資しています。興味深いことに、Foxconnは米国ではなくインドでのiPhone生産を2025年末までに倍増させる計画を発表しています。

関税政策の矛盾と実際の効果

トランプ大統領は関税により他国への投資を抑制し、米国での製造を促進すると主張していますが、実際の効果は正反対の結果を生んでいます。関税により直接的な打撃を受けるのは米国企業であり、最終的にはその負担が消費者に転嫁される構造となっています。

一方で、他国の経済への実質的な損害は限定的です。むしろ、米国企業が関税を回避するために他国への投資を加速させる結果となっており、政策目標とは逆の効果を生み出している状況です。

長期的な戦略と市場への影響

Appleのような巨大テック企業にとって、短期的な関税負担よりも長期的なサプライチェーンの安定性が重要な要素となります。中国依存度の軽減は貿易摩擦への対応だけでなく、リスク分散の観点からも必要な戦略です。

しかし、製造拠点の分散化は米国回帰を意味するものではありません。インドや東南アジア諸国など、コスト効率と技術水準のバランスが取れた地域への移転が現実的な選択肢となっています。

今回の関税発表によるApple株価の下落は、投資家が短期的な業績への影響を懸念していることを示しています。しかし、長期的な視点で見れば、Appleの競争力や市場地位に根本的な変化をもたらすものではないと多くのアナリストが分析しています。

まとめ

25%のiPhone関税は確実にAppleのコスト負担を増加させますが、米国での製造移転を促進する効果は限定的だと予想されます。
移転にかかる莫大なコストと技術者不足という現実的な課題を考慮すると、関税を支払いながら現在の製造体制を維持することが、Appleにとって最も合理的な選択となるでしょう。

この状況は、関税政策の限界と、グローバルなサプライチェーンの複雑さを浮き彫りにしています。
真の製造業回帰を実現するためには、関税による圧力だけでなく、教育投資や技術者育成といった根本的な取り組みが不可欠であることが明らかになっています。

(Via Apple Insider.)


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